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2023年7月15日 (土)

美ビット見て歩き *128 馬場あき子さん

奈良新聞に連載の今月の川嶌一穂さんの美ビット見て歩きは、歌人の馬場あき子さんです。

川嶌一穂さんは、馬場あき子さんのお能の解説を早くから聞いておられたそうです。

馬場あき子さんの1年間を撮影された映画「幾春かけて老いゆかん 歌人馬場あき子の日々」を紹介されています。

大阪の阪急電車の十三駅近くの第七藝術劇場で7月19日まで上映中とのことです。

わたしも6月末に、見に行きました。95才とは思えない元気さです。素晴らしい方だと思いました。そして良い映画と思いました。

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(画像をクリックすると拡大します)

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美ビット見て歩き 私の美術ノート *118 川嶌一穂

 

映画『幾春かけて老いゆかん 歌人馬場あき子の日々』

 

写真 映画『幾春かけて老いゆかん 歌人馬場あき子の日々』チラシ

 

8年前に勤めを辞めるまで、近鉄大阪上本町駅の近くに住んでいた。生活全般何かと便利な所で、日本橋の国立文楽劇場へも歩いて行けたし、谷町六丁目にある大槻能楽堂へはぷらぷらと自転車に乗って行った。
大槻能楽堂で月に一度開かれていた「自主公演能」の企画が演目、演者とも素晴らしくて、よく通った。プログラムには、出演者紹介や、あらすじの他に上演詞章が全部載っていて、とても便利だった。たいてい公演の前には、30分ほどの解説があった。

梅若玄祥(当時)師による「関寺小町」を拝見したとき、はじめて馬場あき子の解説を聞いた。馬場あき子(昭和3年生まれ)と言っても、「鬼の研究」を書いた歌人、というくらいの知識しかなかった。

淡い色の着物をざっくりと、すそ短かに着て、足早に舞台に出て来られた馬場さんは、今計算すると86歳だったはずだが、とてもそんな風にはお見受けしない。声にハリはあるし、時々小さなメモをちらと見るだけで、固有名詞でも和歌でも淀むことなくすらすらと出て来る。
少し体を揺らしながら、生き生きと、楽しそうに話す。

その内容がまた分かりやすくて、何度も「そうだったのか!」と思わされる。
古典に詳しい歌人としての解説だろうと思っていたが、話が進むうちに、どうも違う、と気づく。演者でなければ持てない視点や、深い解釈が入る。調べると、戦後すぐに喜多流十五世宗家・喜多実師に入門、82歳まで舞を続け、新作能をいくつも書いているというとんでもない方だった。それ以来、「馬場あき子解説」という能会があれば、何はともあれ拝見する、と決めた。
先月うれしいことがあった。東京に引っ越して以来よく訪れる観世能楽堂で、山階彌右衛門師による「鸚鵡小町」を拝見したおりに、お手洗いの隣の鏡に馬場さんがいらしたのだ、観客の一人として。7月の本欄のテーマを馬場さんのドキュメンタリー映画にしよう、と思い付いた日だったので、驚いた。

映画は、馬場あき子の93歳から1年間の日々を見つめたドキュメンタリーだが、いつも行く大きな映画館ではやってないので、ちょっと遠出をした。観客はいっぱいで、年配の女性が多く、お隣の女性客に聞くと、やはり短歌をやっている方だった。

「幾春かけて老いゆかん」という映画のタイトルは、作者49歳の年の第五歌集「桜花伝承」の歌

さくら花幾春かけて老いゆかん
身に水流の音ひびくなり

から取られた。現在95歳の馬場あき子が、50歳を前にして「老いの覚悟」を詠った歌だ。早すぎる、と凡人は思うし、またその覚悟の通りに歳を重ねて来た、ということだ。

映画は、自宅で朝日新聞「朝日歌壇」の選歌をしている場面から始まる。2千数百首からⅠ0首を選ぶのだが、その早いこと。トランプのカードを切るようなスピードで、短歌の書かれたハガキを選っていく。それも「主に下の句を見ますね」などとおしゃべりしながら、である。その集中力たるや、驚異的だ。

映画の中で自分でも話しているが、ともかく好奇心が強い。「お笑い、好きよ。専門家ね」。
そして新しいものに偏見がない。これは映画には出て来ない話だが、「ニューウェーブ」歌人で日経歌壇の選者・穂村弘との対談で、穂村の「サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい」という歌を、馬場は「いいわよ」と言う。

馬場は6年前、やはり歌人の夫・岩田正を亡くした。93歳だった。岩田の
イヴ・モンタンの枯葉愛して三十年
妻を愛して三十五年
という歌が二人の全てを語っている。幸せだった分、喪失の虚無も深かったことだろう。
が、馬場は言う、「日々面白い。うるさい程鳴いていた蝉が、ある日飛べなくなって、羽をバタバタさせて裏返って死ぬ。ああいう死に方がいい」と。

 馬場自身も自分を「妖怪変化」(「阿川佐和子のこの人に会いたい」<週刊文春>2023年6月1日号)と言うくらいだから、人生の目標とするには余りに巨大すぎるが、せめて死ぬ日まで、馬場さんのようにスタスタ歩き、ケラケラ笑っていたいな。

 

=次回は令和5年8月11日付(第2金曜日掲載)=
  ・・・・・・・・・・・・・・・
かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。

 

メモ 映画公式サイトhttps://www.ikuharu-movie.com/ 10分ほどの「初日舞台挨拶」は必見。

第七藝術劇場 大阪市淀川区十三本町1−7−27 サンポードシティ6F(上映は5Fシアターセブン)。電話=06(6302)2073。阪急十三駅西改札口から徒歩5分。www.nanagei.com。上映は7月19日(水)まで(17日休映)。

 

 

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