新聞スクラップ 「がんの壁」を越えよう
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人生100年時代 「がんの壁」を越えよう
がん社会を診る 東京大学特任教授 中川恵一
健康・医療
2023年1月11日 5:00 [有料会員限定]
「日本は移民などの受け入れを抑えながら国家を維持してきました。しかし、社会の成熟は少子化をもたらしますから、高齢者が社会を支えていかなければなりません。
がんは細胞の老化といえる病気ですから、働くがん患者が増えることは必然。私たちは「がん社会」を生きることになります。
現在、わが国の高齢化率(総人口に占める65歳以上の高齢者の割合)は世界最高の29%で、2位のイタリアを5ポイントも上まわります。総人口が減るなかで、高齢者の人口は約3600万人と過去最多を記録しています。
高齢者の就業率は25%に達しています。特に65~69歳では10年連続で上昇し、50%を超えました。総就労人口に占める高齢者の割合も世界トップ級の13.5%で、ドイツ(2%)やフランス(1%)とは比べものになりません。
今後、日本人はさらに長く働くことになると思います。50年前と比べて、平均寿命は男女とも12年以上も延びていますが、定年は再雇用などを含めても55歳から10年の延びにとどまります。年金の支給開始年齢は50年前すでに60歳でしたが、今も65歳への移行途上です。
このままではわが国の年金制度の破綻は目に見えており、支給開始年齢の70歳への引き上げは避けられないと思います。私たちは70歳あるいはそれ以上まで働くことになりそうです。
本紙が2019年秋に実施した世論調査でも、60歳代の54%が70歳以上まで働くつもりだと答えています。18年秋の調査に比べて9ポイントも増えています。「人生100年時代」を迎え、高齢者を中心に就労意識が大きく変わっていることが分かります。高齢者が長く働き続ける制度づくりが求められるでしょう。
75歳、80歳まで仕事を続け、その後も社会との絆を保ちながら健やかに暮らす、そんな時代が来ると思います。「老後」が死語になるともいえるでしょう。
実際、日本人女性の半数以上が、男性でも4人に1人が90歳まで生きています。100歳以上の高齢者の数は52年連続して増加し、22年に9万人を突破しました。
ただし、百寿者の9割近くが女性です。そこで、男性諸氏に呼びかけたいと思います。一定の生産性を保ったまま90歳を迎え、さらに、100歳をめざそうではありませんか。
そのためには80歳までにがんで命を落とさないことが大切。60~74歳の男性、35~74歳の女性では、がんが死因の4割を超えています。まさに「がんの壁」です。超高齢社会のフロントランナーとしてこの壁を乗り越えていきましょう。
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