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2022年11月14日 (月)

美ビット見て歩き ※111中之島香雪美術館特別展

 川嶌一穂さんの「マイ美術館」は学園前の大和文華館とのことです。今開かれている京都国立博物館の茶の湯展でも、大和文華館の所蔵の品がたくさん出ていました。今回は、大阪中之島の香雪美術館特別展です。大阪フェスティバルホールのある建物の西、ウエストにあるとのことです。(画像をクリックすると拡大します)

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美ビット見て歩き 私の美術ノート *111 川嶌一穂

 

中之島香雪美術館特別展「伊勢物語―絵になる男の一代記」

 

写真 俵屋宗達筆 伊勢物語図色紙「芥川」 大和文華館蔵 江戸時代・十七世紀(中之島香雪美術館提供)

 

 誰にとっても「マイ美術館」があると思うが、私の場合は本欄で以前書いたように、奈良・学園前の大和文華館である。中学高校時代から学校で割引券をもらっては、よく友人と訪れ、大学院の古美術研究旅行でお邪魔した折は、館蔵の野々村仁清作「色絵おしどり香合」を本当に間近で拝見した。

 ゆえに私にとって「伊勢物語絵」と言えば、写真に掲げた大和文華館蔵の俵屋宗達筆「芥川」なのである。およそ25cmx20cmという小さな画面の中で、豪華な狩衣姿の男が芥川のほとりで、背負った女を振り返る。

 露など見たこともない深窓の姫君が、「あれは何?」と男に問いかけたところである。引き目鉤鼻で描かれる二人のあどけない表情が危なっかしい。点在する銀の露は例によって黒く変色しているが、描かれた当初、四百年前にはきらきらと光っていたことだろう。

本文中の「白玉かなにぞと人の問ひしとき露とこたへて消えなましものを」(「あれは真珠か何かなの」と問われたときに、「露ですよ」と答えて私も消えてしまえばよかったのに)という歌が、この恋の逃避行の悲劇的な結末を象徴している。

 この後、男は荒れ果てた蔵の中に姫君を入れて、入口に立ってお守りしていたはずなのに、夜が明けると姫君は鬼に食われて消えてしまっていた。「鬼一口」という恐ろしい話だ。

 段の終わりに、女は後に二条の后と呼ばれた藤原高子(たかいこ・清和天皇女御)であること、兄たちが高子を取り戻しに来たのを「鬼の仕業」と言ったものだろう、という註のような一節がある。怪異物語として読んでいた読者は、ここで急にリアルな世界に引き戻される。ああ、これは業平の物語なのだと。

実在する在原業平(ありわらのなりひら・天長二年<825>〜元慶四年<880>)は、藤原定家の編んだ「小倉百人一首」に、「ちはやぶる神代も聞かず龍田川からくれなゐに水くくるとは」という歌が収められている。彼を主人公とする「伊勢物語」は、精緻に組み立てられた大河ドラマである「源氏物語」とは違って、一話一話も短く、時の流れも厳密ではない短編小説集である。

その「ゆるさ」が人々に愛されたのか、それとも稀代の色男はやはり「絵になる」のか、これまで多くの「伊勢物語絵」が描かれた。
二年前に本欄で「聖徳太子」展をご紹介した中之島香雪美術館で、「伊勢物語」特別展が開かれていると知って、先日楽しみに出かけた。それほど広くない会場に、ほとんどが拝見したことのない、様々な様式の伊勢物語絵が並び、文字どおり時を忘れた。

本展の開催は、香雪美術館中之島館開設の準備中、村山龍平コレクションの中から十七枚の「伊勢物語図色紙」が「再発見」されたことがきっかけだったという。南北朝時代・十四世紀の作と考えられ、色紙に描かれた物語絵としては現存最古の作品となる。濃い色彩がよく残り、地面に細かな銀箔が撒かれた豪華本である。

描きこまれた濃彩の作品の多い会場に、軽やかで、愛らしくて、思わず頬のゆるんだ伊勢物語絵巻(室町時代・十六世紀)があった。素朴な筆致で描かれた、人物と草花のスケールもおかしい、素人の作かと思ってしまうような作品。がよく見ると、動きも生き生きとして、色彩感覚もおしゃれな、なかなか達者な筆だ。

驚いたのは、「嵯峨本伊勢物語」。慶長十三年(1608)に、豪商・角倉了以が刊行した木活字本である。細かな図柄を、こんなにも細い線で彫り、それを刷るとは、何という高い技術か。この料紙にも装丁にも凝った印刷本は、読者の数を桁違いに増やし、江戸時代の文化の花を咲かせることに大いに貢献したことだろう。

今回、物語絵だけではなく、業平単独の像も数点出ているが、中でも岩佐又兵衛の「在原業平像」(江戸時代・十七世紀)は独特の雰囲気があって面白い。ぼってりとした長い顔の業平は、一筋縄ではいかない男として造型されている。又兵衛はもう一枚、「伊勢物語図第二十四段『梓弓』」も出ていて、物語の悲劇的な大人の事情を人物の表情で語っている。
それぞれの絵にそれぞれの楽しみあり。堂島川はもう秋色に染まっているだろうか。

 

=次回は12月9日付(第2金曜日掲載)=
  ・・・・・・・・・・・・・・・
かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。

 

メモ 中之島香雪美術館 大阪市北区中之島3−2−4、中之島フェスティバルタワー・ウエスト4階。電話06(6210)3766。https://www.kosetsu-museum.or.jp/nakanoshima/
四つ橋線「肥後橋」駅4号出口直結。会期は11月27日(日)まで。月曜休館(祝日の場合は翌火曜日)。

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