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2022年9月10日 (土)

美ビット見て歩き 109

毎月奈良新聞で楽しみにしている川嶌一穂さんの美ビット見て歩きも109回目です。

河内長野市の観心寺と金剛寺、9月11日まで京都国立博物館知新館で開かれ、会期もあとわずかですが、文を読むだけでも楽しめます。

河内長野市とのこと、生駒金剛連峰をすこし越えたところのある、ふたつのお寺、機会を見つけてぜひ行きたいと思います。

(画像はクリックすると拡大します)

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美ビット見て歩き 私の美術ノート *109 川嶌一穂

 

京都国立博物館特別展「河内長野の霊地 観心寺と金剛寺―真言密教と南朝の遺産―」

 

写真 会場の平成知新館入口(著者撮影)

 

 近鉄奈良駅から難波方面への電車に乗って、富雄駅を越えると新向谷(しんおおたに)トンネル、生駒駅を過ぎるとすぐに新生駒トンネルに入る。それぞれ矢田丘陵と生駒山地を東西に貫くトンネルだ。
 新生駒トンネルを出ると、眼下に大阪平野がパーっと開ける。徐々に高度を下げながら走る、進行方向右側の車窓からの眺めが素晴らしい。昔は大坂城を見つけるのが楽しみだったが、今は先ずあべのハルカスを探す。鳥になったような、ほんの数分間の贅沢。

 地形図を見ると、京都盆地、奈良盆地、和歌山平野が繋がった、言わば広い大阪平野があって、その東から南の縁に生駒山地、金剛山地、和泉山脈という一続きの山系が伸びている。同じ山を奈良は東から、大阪は西から眺めていることになる。その「逆くの字」が折れ曲がる所に観心寺と金剛寺がある。古来、都から高野山への街道の合流地点として栄えた河内長野である。

 河内の観心寺と言えば、仏像好きなら誰しも「如意輪観音坐像」(国宝・平安時代・榧材・乾漆仕上げ・彩色)を思い出すだろう。これも国宝の金堂に、戦前は33年に一度、現在は4月17日、18日の二日間だけ開扉される秘仏として祀られてきたご本尊だ。
 密教仏らしい官能的な美しさを湛えたお像だが、ふくよかな六本の腕は、健康に育った乳幼児のようでもある。ずい分前に観心寺で拝見したとき、千二百年近く前のこんな場面が心に浮かんだーあまりに美しいお像に仕上がって困惑する仏師に、河内の人々が「まあええやないか」と受け入れた!?
はじめて観心寺を訪ねたその日の帰り道、昔ながらの茶店が目に入った。その年の花が遅かったのか、それともいつも平地より遅いのか、4月17日というのにまだ桜が咲いていた。川べりの座敷に座ってぜんざいを食べていると、いきなり風が吹いて、はらはらと川面に花が舞い散った。まるで夢の中にいるようだった。
残念だが、と言うか当然ながら、「如意輪観音坐像」は本展にはお出ましにならない。観心寺からは今回、「伝宝生如来坐像」と「伝弥勒菩薩坐像」など重要文化財が六体お出ましである。ポスターになった「伝宝生如来坐像」は、拳を握った右手を腰脇に置く珍しい姿。二体とも細身で、少し憂いを帯びた端正なお顔だ。

今回、東京の自宅から日帰りで京博を訪れた一番の目的は、「日月四季山水図屏風」(国宝)だった。観心寺から直線距離にして西へ5kmほど行った金剛寺に伝わる、室町時代に作られた紙本着色、六曲一双の屏風である。
 わたしは昔からこの屏風が大好き。丸い山が、モグラの穴のようにぽこぽこと川波の中から盛り上がり、松の木は幹も下枝もくねくねと踊っている。画面の下を埋める川の流れと波頭の生み出す自在な曲線が、山や松と響き合っている。
 実は、この屏風の制作当初の姿を想像するのは意外と難しい。用いられている銀が時代とともに酸化(正確には「硫化」)して黒くなるからである。「日月図(じつげつず)」と言うくらいだから、画面の中に太陽と月が描かれているはず。右隻の山々の間で輝いている金色の太陽はすぐ目に入るが、月はなかなか見つからない。目を凝らすと、左隻の雪山の上に少しメタボの三日月があるのだが、背景と月の銀が黒くなっていて見えにくい。

 当初の画面を再現した図がないかとネット検索すると、民間の研究所がこの屏風を「デジタル復元」していることを知った(「小林美術科学」、「日月山水図屏風」と入れて検索)。復元された屏風を見ると、左隻から右隻に向かって滔々と流れる大河が出現し、左右の絵に、現状ではあまり明確ではない統一感が立ち上がった。

 金剛寺さんへも、ずい分前に一度お邪魔しているのだが、本展で拝見した名品の数々をそのときお寺で見た記憶がない。いったい何を見ていたのやら。

「五秘密曼荼羅図」(重要文化財・鎌倉時代)は、中心の金剛薩埵(こんごうさった)に欲・触・愛・慢の四金剛がまとわりつく形で、「煩悩即菩提」という密教の真理を象徴しているらしい。身体と、身にまとう装身具のこの世的な美しさと、この世ならぬ神秘性が溶け合った優品。
「延喜式神名帳」(国宝・平安時代)も興味深い。現存する「延喜式」巻第九の最古写本で、宮中、京中、五畿七道の順に書かれた、神祇官に登録された官社の一覧である。「大和国二百八十六座、添上郡三十七座、添下郡十座、平群郡二十座」の箇所も展示されていて、奈良の神社名を一つ一つ辿っていくのが楽しい。

他にも、密教法具である三鈷杵型の柄を備えた両刃の剣(国宝・平安時代)など見るべきものが多い。展覧会は閉幕も近いので、またいい季節に生駒・金剛山地を越えて、河内の名寺を訪ねる旅をしたい。

 

=次回は10月14日付(第2金曜日掲載)=
  ・・・・・・・・・・・・・・・
かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。

 

メモ
京都国立博物館平成知新館。京都市東山区茶屋町527。電話075(525)2473。京阪電車「七条駅」下車、東へ徒歩7分。会期は明後日9月11日(日)までなのでご注意下さい。https://www.kyohaku.go.jp/ 観心寺。大阪府河内長野市寺元475。電話0721(62)2134。南海高野線または近鉄長野線「河内長野駅」から南海バスに12分乗車、「観心寺」下車すぐ。金剛寺。大阪府河内長野市天野996。電話0721(52)2046。南海高野線または近鉄長野線「河内長野駅」下車、南海バスに23分乗車、「天野山」下車すぐ。「日月四季山水図屏風」は年二回、春秋の数日間のみ公開。今年の秋は、11月3日から5日までの3日間。

 

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