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2022年5月25日 (水)

短歌をかたわらに明日香を訪ねて 「明日香に来た歌人」

今回の明日香ツァーでお世話になったのは、小谷稔先生の「明日香に来た歌人」という本です。文芸社発行。700円+税。

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奈良まほろばソムリエの会の藤田道夫さんが「明日香に来た歌人で」で歌人別にまとめられた短歌を、詠まれたであろう場所別にまとめられた力作のプリントです。

(なお、小谷稔先生は2018年まで現役の歌人として活躍されていましたので、現代歌人とすべきですが、便宜的に近代歌人とされています。雁部貞夫先生、三宅奈諸子先生、倉林美千子先生も現代歌人です)

1)牽牛子塚古墳
で詠まれた小谷稔先生の歌。


・出土せる敷石の列はまぎれなく八角形墳ぞ白く整然と 
   
・人あまた使ひ大工事好みし女帝にわが親しまず  
     
・棺置く白石二つは母と子か灯りの照らす石槨の奥 
     
・牽牛子塚に寄り添ふ墓の出土して再び来たり越の冬丘 
    
・大津皇子の母の古墳か閃緑岩の床曝されて冬日に青し 
    
・大津皇子の齢は母を越えたりやあはれは尽きず母子ともども 

・「皇孫大田皇女を陵の前の墓に」書紀のそのままわが眼の前に
  
・この古墳に母恋ふる幼きまぼろしの二人を置きて峡に下らむ  

2)飛鳥坐神社  
●万葉歌碑
・大君は 神にしませば 赤駒の 腹這う田居を 都と成しつ 
大伴御行 犬養孝氏の揮毫
意味)大君は神でいらっしゃるので、赤駒が腹這う田を立派な都になさった

・齋串立て 神酒すゑ奉る 神(は)主部(ふりべ)の うずめの玉蔭 みればともしも
                     作者不詳 書家鈴木葩光氏の揮毫
意味)齋串を立て御神酒を捧げまつる神官たちの髪飾りのかずらは、見るからにゆかしい

●近代歌人
・ほすすきの夕ぐもひくき明日香のやわがふる里はひをともしけり 釈迢空

・御田植の神事終りて杉の下に静かに牛の面脱ぐところ      小谷稔 

3)大原の里   
●万葉歌碑
・わが里に 大雪降れり 大原の 古りにし里に 降らまくは後    天武天皇 
意味)わたしの里に大雪が降ったよ。あなたのいる大原の古里に降るのはもっと後でしょう。

わが岡の おかみにいひて降らしめし 雪の摧(くだ)けし そこに散りけむ 藤原夫人
意味)わたしのいる岡の水の神様に言いつけて降らせた雪の砕けたとばっちりが、そこに降ったのでしょう。 犬養孝氏の揮毫

●近代歌人

・大原の里を恋しみゐたるときわがかうべより汗したたりぬ    斎藤茂吉

4)明日香民俗資料館前
●万葉歌碑
・大口の 真神の原に 降る雪は いたくな降りそ 家もあらなくに
                     舎人娘子(とねりのおとめ) 犬養孝氏の揮毫
意味)真神の原に降る雪は、ひどく降らないでほしい。その辺りに家もないので

●近代歌人
・飛鳥川の水みな引きて浄(きよ)御原(みはら)の早苗の田原光みなぎる 小谷稔


・刈田ひろき夜の浄御原雲を透く月のひかりは空のまほらに  小谷稔

 

 

5)薬屋旅館跡
●近代歌人
・わがために二日の業を休み来し友と寝る明日香の家に  島木赤彦

・旅ごころ静になりぬ片ゐなか明日香の岡に友と宿りて  中村憲吉

・大柘榴木の実のあひに赤き花のこり寂びしこの庭みおぼえのあり  中村憲吉

・ひとつ蚊帳にねむりしことも現なる飛鳥の里の朝あけにけり  斎藤茂吉

6)犬養万葉記念館 
●万葉歌碑
・山吹の 立ちよそひたる 山清水 汲みに行かめど 道の知らなく
   高市皇子 犬養孝氏の揮毫
意味)山吹が咲いている山の清水を汲みにいきたいが、そこに行く道が分らない

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7)飛鳥京跡
●万葉歌碑
・采女の 袖吹きかへす 明日香風 京を遠み いたづらに吹く
    志貴皇子 平山郁夫氏の揮毫
意味)采女の袖を吹き返した明日香風は、都が遠くなったので、ただ空しく吹いている

●近代歌人
・山のつつむは岡本宮のあとどころ木立は岡寺の甍をかくす    土屋文明

・かぎりなく大和を思ふ小さなるこの明日香をぞかぎりなく思ふ   土屋文明

・天なるや月日も古りぬ飛ぶ鳥の明日香の岡に立ちて思ふも     島木赤彦

8)酒船石遺跡 
●近代歌人
・斉明紀の「狂心の渠(みぞ)」にかかはるか出土して白き亀形の石  小谷稔

・酒船石に亀形石に刻む溝の謎はともあれ水を崇めし  小谷稔

   ・渠を造り運ばしめしと書紀に記す布留の石ぞこれ黄なる積み石  小谷稔

・斉明紀の石の工事の跡見れば赤兄思う欺かれし有馬皇子を思う  小谷稔

・ひばり鳴き山鳩が鳴き遠き代の霞(かすみ)はなびく酒槽(さけふね)石(いし)に居れば  落合京太郎

・何時来ても酒槽石の丘の上より見はるかすなり大原の棚田  上村孫作

9)奥明日香(祝戸から稲渕) 
●万葉歌碑
・明日香川七瀬の淀(よど)に棲む鳥も心あれこそ波立てざらめ
   作者未詳 犬養孝氏の揮毫
意味)明日香川の七瀬の淀みに住んでいる鳥も心があるからこそ波を立てずにいるのでしょう

 ・明日香川明日も渡らむ石橋の遠き心は思ほえぬかも  作者未詳 犬養孝氏の揮毫
意味)明日香川を明日にも渡ろう、遠い先の見通しなど思いもよらない  
                     
●近代歌人
・飛鳥川をはさみて棚田相対ひ畔の曼殊沙華の花相向かふ 小谷稔

・街の人らオーナーとなり田植せり明日香の棚田今日にぎはひて 小谷稔

・街の人に田植を教ふる村人ら減反の憂ひ抱くと見えず 小谷稔

・行く先々湛ふる水と動く水なべてかがやく早苗田のとき 小谷稔

・春寒く今年遅るる蛍とぞやさしく時に随ふいのち  小谷稔

・闇になるを蛍も我も待ちしなり光を曳きて一つただよふ 小谷稔

・奥明日香「蛍の里」とて人誘ふあたかも稲田の荒れし頃より 小谷稔

・故里のごと奥明日香親しきにここにも子供一人だに見ず 小谷稔

・白く乾く飛石わたるわが影の流れに落ちて飛鳥川ゆく 小谷稔

・去にし世のたれか並べし石走を渡らむよ溝蕎麦の花も濡れゐぬ 倉林美千子

・飛鳥川の水に一つは没したる石走渡る靴を濡らして 倉林美千子

・飛鳥川さかのぼりきていにしへの人が踏みけむ石橋わたる 大塚布見子

・流れに置きし石橋にあやふく我は立つ古き相聞の世をおもひつつ 三宅奈諸子

・山を以てしづかにかこむ高市村いにしへびとは住みつきにけり 中村憲吉

・一人は儚く一人は雄々しこの道を吉野に逃れし皇子にありしか 倉林美千子

・うねうねと畔作り田をなす工見れば朝鮮慶州あたりゆきし思ほゆ  土屋文明

・飛鳥川の勧請男綱眺めつつその単純を媼(おうな)は愛づる  前登志夫

10)南淵山 

●近代歌人
・川を護る策ともなりけむ南淵山の木を伐らしめず天武記五年 小谷稔

・南淵山の裏は親しき峡(かい)の村請安の墓を守り蛍を護る 小谷稔

・置き忘れし眼鏡探して引き返す林の中に独り言ひて 小谷稔

・み食向かふ南淵山の高きまで耕して田植の水はみなぎる 土屋文明

・中大兄も鎌足も南淵へかよひけむ山かいみちを友と月夜に 中村憲吉

・遣唐使なべては大和へ帰化の人請安先生その一人にて  雁部貞夫

11)坂田
●近代歌人
・おそるあそる読みし日本書紀に渡来人多須奈と止利の親子と知りき 倉林美千子

・坂田の丘のうへなる奥津城に涙を落とすその母とともに 島木赤彦

・わが知らぬ十年のうつりいたいたし君が血すじの殆どほろぶ 中村憲吉

・君の墓を過ぎて直ちに南淵山つづく日和に谷の乾けり 小谷稔

12)石舞台
●万葉歌碑
・御食向かふ南淵山の巌(いわお)には降りしはだれか消え残りたる 
柿本人麻呂 辰巳利文氏の揮毫
意味)南淵山の巌には、降った薄雪が消え残っている

●近代歌人
・玄室のうち広らなり説き示す若き学者の声ひびきとほる  佐佐木信綱

・陰謀の都ありきと言ふなかれ石棺おほらかに丘を築けり 倉林美千子

・飛鳥をいゆきめぐりていづこにても二上山の見ゆる親しさ 落合京太郎
 (万葉集 うつそみの人なる我や明日よりは二上山を弟(いろせ)とあが見む  大伯皇女)

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