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2021年11月14日 (日)

祝 美ビット見て歩き 100回連載

奈良新聞の連載で毎月楽しみにしている、川嶌一穂さんの「美ビット見て歩き」が九年かけて100回を迎えました。

まことにおめでとうございます。

100回目のタイトルは「振り返ってみれば」とのこと。小さな頃から、美術が好きであったお父様に連れられて、正倉院展など見にいかれたとのことです。良い家庭環境に生まれられたと思います。以来70年が経ち、この一三〇〇年伝えられてきたことをさらに一三〇〇年後の子どもたちに伝えたいといっておられます。一三〇〇年後にいきなりは伝えられませんから、私たちはまず子どもや孫やさらに次の人たちに伝えていかなくてはいけないと思います。そういう壮大な歴史の一大局面ににわれわれは存在しているのだと思います。

ともあれ、川嶌一穂さんのご健康を祈念して、ますますのご健筆を期待したいと思います。

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(画像はクリックすると拡大します)


美ビット見て歩き 私の美術ノート *100 川嶌一穂

 

振り返ってみれば

 

写真 昭和28年ごろの法隆寺にて、両親と叔母と。

 

 9年前、平成24年10月の松伯美術館「つらつら椿展」で始まった本欄が今回で100回を迎えた。
振り返ってみれば、幼い頃から美術好きの父に連れられてよく展覧会や、お寺や神社を訪ねた。自分の好みがはっきりする前に色々見ることができたのは、今考えると貴重なことだった。

15日まで開催中の正倉院展には、昭和26年、2歳のときから行っているらしい。もちろんその頃の記憶はないが、物心ついてからも入場無料の「文化の日」に毎年家族で出かけた。無料の日でも旧館の小部屋一室に私たちの他に2、3組いるかいないかというほど人が少なかった。上から見る小さな展示ケースが並べてあって、いま地方の小さな美術館でそんなケースを見ると懐かしい気がする。
同じ日かどうか記憶が曖昧だが、木造建築だった旧県公会堂で開かれる県展にも毎年出かけた。縁側を通って彫刻や絵画が置かれた畳の部屋を次々に巡るのが楽しかった。帰りに東大寺南大門の東側にある小さな動物園で猿やホロホロ鳥を見たり、今から思えばけっこう危険なぐるぐる回る大きな遊具で遊んだりした。

小学校高学年の頃、中宮寺を訪ねたときのことは忘れ難い。新しい本堂ができるずっと前で、戸の閉まっている御殿には受付もなく、玄関で父が大きな声を出して拝観をお願いすると、一人の尼さんが案内して下さる。畳の部屋をいくつも通って、一番奥の部屋に国宝の菩薩半跏像が置かれていた。ちょっと離れた所に座っている尼さんに、父が「光背は…」などと質問すると、澄んだ声で答えられる。お像よりも美しいこの若い尼さんはどうして頭を丸めて尼さんになってしまったのだろう、なぜこんなに満ち足りた様子なのだろう、とわたしは子供心に不思議な気がした。

中学生になると、家族よりも友人と行動するようになり、一番よく出かけたのは近鉄学園前駅近くにできたばかりの大和文華館だ。今もそうだが展示室の真ん中に竹を植えた中庭があって、ガラス越しに見る緑が清潔で美しい。
時々クラスで先生が希望者に割引券を配ってくれる。そういう時は素早く手を挙げて入手した。正確な数字は忘れたが、通常なら250円のところ半額になるくらいの割引で、縦長の小さな薄っぺらい紙の券だった。
昭和37年の「近代日本画名作展」に出た菱田春草の『黒き猫』や速水御舟の『名樹散椿』に心ひかれ、展示された場所も覚えている。昭和40年の「近代日本洋画名作展」とともに印象深い展覧会だ。明治時代の名作をほとんどこの時期の大和文華館で見られたことが、その後のわたしの趣味嗜好を決定したかもしれない。

連載中は必ずこの目で見たものを書く、ということをルールにしてきたが、最近はこのご時世でそうも行かない回が出て来た。
緊急事態宣言の合間に一度だけ弾丸帰省して興福寺界隈を散歩したが、その晩はずいぶん久しぶりに朝までぐっすり寝た。1300年かけて先人たちが育んでこられた、数字に換算できない「奈良力」のお陰だろう。

若い頃は人並みに西洋文化に憧れたが、たまたま奈良に育ったことで、世界を見渡してもあまり類の無い多様な伝統の存在に気づくことができた。この「力」を1300年後の子供たちにもぜひ手渡さねばと、70歳を過ぎて切実に思うようになった。

最後になりましたが、画像をお借りしたり、様々な質問に答えて下さった美術館や、連載第1回から担当して下さったTさんはじめお世話になった方々に感謝申し上げます。
これからも気ままな「見て歩き」にお付き合いいただけたらうれしいです。

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かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。
=次回は12月10日付(第2金曜日掲載)=

 

 

 

 

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