美ビット見て歩き ※99 吉野山
毎月楽しみにしている、奈良新聞の川嶌一穂さんの美ビット見て歩きは99回。吉野山です。
春の桜の時期は有名ですが、桜の紅葉する11月もおすすめということです。
いま金峯山寺の仁王門は大改修中。蔵王堂も覆われている写真を拝見しましたが、中は拝観できるそうです。
美ビット見て歩き 私の美術ノート *99 川嶌一穂
吉野山
写真 花の吉野 写真=田中真知郎(土屋文明・猪股靜彌著『歌の大和路』昭和48年・朝日新聞社刊より)
何と言っても花は桜、桜は吉野。上千本あたりから蔵王堂を遠望するその景色の美しいこと。夢みたい、といつも思う。吉野の次に好きな京都嵐山の桜の樹は吉野の樹の種から育てたという話を聞いては、やはり吉野の桜は何か特別なのだと思わされる。五十代の頃は、花の吉野へほぼ毎年通った。平地での桜が終わると、どうしても吉野に行きたくなるのだった。
出来るだけ朝早く出て、近鉄吉野駅からケーブルとバスを乗り継いで、まず終点の奥千本口まで行ってしまう。それから登り坂や崖道を歩いて西行庵まで足を延ばす。足元に深山酢漿(ミヤマカタバミ)が咲き、見守るように筒鳥が休みなく鳴いてくれる。
苔清水に水はあるとしても、こんな山の中で三年間も、西行法師はいったい何を食べて生きていたのだろう。
なにとなく春になりぬと聞く日より心にかかるみ吉野の山
桜に寄せる西行の歌は、800年以上の時の隔たりをまったく感じさせない。
5、6年前、久しぶりに訪れたら、途中の山道が丸裸になっていて驚いた。杉の木などを伐採して、桜に植替えているということだが、若木が少しは育っているだろうか。
金峯神社まで戻って、あとは花を見ながら気ままに下って行く。必ずお参りするのは水分(みくまり)神社。慶長年間に豊臣秀頼により再建された社殿は、桃山の壮麗な装飾が400年の時を経ていい枯れ具合だ。
13世紀、建長年間の墨書銘がある玉依姫命(たまよりひめのみこと)のご神像(国宝)が、笑くぼをたたえて社殿内のどこかに鎮座しておられるはずだが、これまでも、これからも、完全非公開。仏像は、時には博物館で拝観するのに慣れてしまった私たちは、日本古来の信仰の姿に改めて気付かされる。
遠く、また近くの花を堪能しながらこの辺まで下ると、下から登って来る人が増えてくる。ああ、早く出てよかったと思う。
当麻寺・中之坊、大和小泉の慈光院とともに大和三庭園の一つに数えられる竹林院の庭園・群芳園もぜひ拝見したい。こちらで吟行句会中の母とばったり出会ったことがある。お互い吉野に来ていることを知らずに、笑い合ったことだった。
この辺から参道にお店も増えて、買い物を楽しんだりしているうちに、金峯山寺(きんぷせんじ)が見えて来る。高い石壇の上に建つ堂々たる二階建ての仁王門(国宝)が、お疲れ様!と迎えてくれる。
残念ながら、現在仁王門は大規模修理中。門内の金剛力士像二体は、奈良国立博物館仏像館で、令和10年に予定されている修理の完成を待っておられる。石段を少し上がった所にある、秀吉・秀頼が再建した檜皮葺きの壮麗な蔵王堂(国宝)も整備工事中だが、堂内への参拝は可能だという。
花の季節はバスの便があるので、その日の朝に思い立って出かけることもあった。いつかは紅葉の吉野を訪れたいとずっと思っているが、まだ果たせていない。半年ぶりに今月から緊急事態宣言が解除されたが、紅葉が見頃の11月にはどうなっているだろうか。
淑き人の良しと吉く見て好しと言いし芳野吉く見よ良き人四来三
(よき人のよしとよく見てよしと言いしよし野よく見よよき人よく見つ)
まるでおまじないのような天武天皇の御製がしきりに思い出される。
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かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。
=次回は11月12日付(第2金曜日掲載)=
メモ
吉野山 近鉄吉野線吉野駅下車。徒歩3分のロープウェイ(金土日月のみ運行)千本口駅から乗車、吉野山(山上駅)下車。路線バス(土日のみ運行)吉野山駅バス停から乗車、奥千本口下車。ロープウェイ、バスとも問合わせは、吉野大嶺ケーブル自動車。電話0746(39)0010。www.yokb315.co.jp
竹林院群芳園 庭園見学可(昼食は要予約)。電話0746(32)8081。
金峯山寺仁王門東側の県道は仁王門工事のため、10月21日(木)まで、月曜から金曜まで通行止め。問合せは、金峯山寺。電話0746(32)8371。
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