奈文研の展覧会へ
奈良文化財研究所では、9月12日まで、奈良を測るーー森蘊(おさむ)(1905~88年)の研究と作庭という夏期特別企画展がひらかれています。
いつもなら車で駐車場もあって便利なのですが、現在、奈良市によるコロナ特別対策とかということで、駐車場はつかえません。
雨のため、西大寺行きのバスで二条町で降りました。すぐ前が奈良文化財研究所の平城宮跡資料館です。
入館無料。写真撮影もフラッシュを使わなければOKです。
測量に使われアリダードを用いた平板測量
東大寺旧境内、奈良公園の測量
東大寺大仏殿を中心とした境内の測量図。
大乗院庭園の図。
唐招提寺庭園の絵図。
そのほか法華寺、浄瑠璃寺、円成寺など興味深い庭園の発掘整備を行われ展示されていました。
精密な等高線を引いた測量図そして丁寧なスケッチなどが展示され、森蘊さんのその素晴らしい研究成果がよくわかりました。
ちょうど、展覧会の説明が動画で、なぶんけんチャンネルにアップされています⇒https://www.youtube.com/watch?v=DZskcFaUtFo
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また、
日経新聞2021.8.19文化欄にも京都産業大学の准教授のエマニュエル・マレスさんが紹介されています。
歴史家の庭づくりに縁を感じて 理想にかたち与える場
日本庭園史研究の泰斗・森蘊 作庭家としての足跡たどる
エマニュエル・マレス
森蘊(おさむ)(1905~88年)は日本庭園史の基盤を築いた人だ。京都市の桂離宮や修学院離宮など全国の歴史的庭園の測量に力を注いだ。徹底的な文献資料の分析と、精密な現地調査および測量図の作製、そして発掘調査の成果を総合し、現在の文化財庭園の保存と修理の礎になっている「復元的研究」という方法を確立した。
一方で数々の庭をつくってきた作庭家としての一面は、これまであまり評価されてこなかった。私は森が所属していた奈良文化財研究所(奈文研)に残る資料を整理し、森の下で働いた庭師らにインタビューを重ね、森が日本庭園に何を求めていたのか、考えている。
庭園史、建築史、地理学などを学んだ森の庭園測量図は、池や泉、水路などを正確に計測し、等高線がびっしりと描き込まれているのが特徴だ。海抜高を記入して地形の凸凹を表現し、たとえ庭水が枯れていても地形から水源を推測する。
日本最古の人工の滝といわれる「青女滝」がある法金剛院(京都市)の浄土式庭園も森らの手によって復元されたものだ。滝は半分以上埋もれていたが、それまでの研究成果に基づいて滝口付近から発掘を始め、滝を形作る巨石を見つけた。古絵図や中世の作庭秘伝書なども参考に全体を整備し、青女滝の迫力ある姿をよみがえらせた。
奈良市の旧大乗院庭園のシンボルともいえる朱塗りの反橋も復元した。比較調査などを通じて同庭園が平安時代に造営された寝殿造り系の庭園であり、室町時代の庭師、善阿弥(ぜんあみ)などによって改修されたと結論づけた。
かつての庭園の姿を記録した資料「大乗院四季真景図」に描かれていたのは白木の屋根付き橋であったが、森はあえて朱塗りの橋を架けた。真景図に描かれているのは大乗院庭園の江戸時代の姿にすぎず、平安時代から続く庭園にふさわしいのは朱塗りの橋だと判断したのだろう。
こうした歴史的庭園の復元活動と並行し、森は全国の社寺や公園、学校、個人宅などで庭をつくりつづけた。法華寺(奈良市)の「仔犬の庭」、慈光院(奈良県大和郡山市)の「新書院庭園」では隣接する文化財と調和するような庭づくりに細心の注意を払った。
参考にしたのは平安末期に成立したと思われる「作庭記」だ。庭園学では従来、室町時代の枯れ山水や露地が日本庭園の最高峰とみなされていたが、森はさらに遡って平安時代末期を「第一黄金期」と位置づけた。庭をつくるときは常に「作庭記」を現代風に解釈し、その復興的庭園を目指した。
私は日本語を学んでいるとき、「縁」という言葉から「縁側」に興味を持ち、日本建築を学んだ。学生時代に庭師のもとでアルバイトをしたのがきっかけで、庭園史の研究を始めた。
奈文研に残る森の手書きの図面、スケッチ、原稿、メモなどを仲間と整理し、2019年に目録を公開した。「森蘊 旧蔵資料」の数も内容も多種多様であり、多岐にわたる森の業績をよく表現している。厳密でストイックな測量図もあれば、非常に繊細で自由な設計図もある。
こうした資料を9月12日まで、奈良市の平城宮跡資料館で公開している。足跡をたどるにつれて、森にとって作庭は単なる副業や息抜きではなく、日本庭園史研究の延長にあり、日本庭園の理想を自身で具体化する場であったと考えている。その評価はこれからだ。海外との比較も通じ、日本庭園とは何かを考え続けていきたい。
(京都産業大学准教授) 日経新聞2021.8.19文化欄より
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