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2021年5月16日 (日)

美ビット見て歩き *94

コロナ禍でいろいろな展覧会が会期を繰り上げて終了など、たいへん残念なことです。国、都道府県、各市町村で対応も異なっています。

一律に閉館するのは残念なことです。ふだん空いているところまで閉める必要があるのか、大阪、兵庫、京都などへのいろいろな宣言などにより奈良にまで及んだりしています。
「奈良国立博物館の聖徳太子と法隆寺展」は入館制限や時間指定などをしながら、開館しています。西山厚先生の

先日の毎日新聞でのエッセイでは「生きているうちにもう見られない展覧会」と絶賛されています。

ところですでに閉館なった大阪での特別展「豊臣の美術」ですが、川嶌一穂さんの美ビット見て歩きに載っていました。

豊臣秀吉の美術のことが良くわかる記事です。

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美ビット見て歩き 私の美術ノート *94 川嶌一穂

 

大阪市立美術館特別展「豊臣の美術」

 

写真 重要文化財《豊臣秀吉像》慶長3年(1598)賛 京都・高台寺蔵(大阪市立美術館提供)

 

 先月、緊急事態宣言の合間を縫って久しぶりに帰寧して墓に参り、ぜひ見たかった「豊臣の美術」展にも寄ることができた。
 関西人は、大坂冬の陣の講和の後、外堀ばかりか二の丸まで埋めてしまった家康よりも、「太閤さん」が好きである。それは滅びたものへの愛惜の念だろうし、またネアカで、稚気あふれる秀吉の人物像が人を惹きつけるのだろう。
 秀吉は下賤の生まれと言われるが、なかなか教養もあり、趣味のいい人物だったことが本展を見て分かる。本展第2章「美麗無双―桃山セレブが選ぶ調度・名物―」を見てみよう。秀吉所用の「蜻蛉燕文様陣羽織(とんぼつばめもんようじんばおり)」は、金地に大きな日輪が描かれ、袖口には青く染めた羽根が植えられている。信長から「はげ鼠」と呼ばれた小柄な秀吉が、この派手な陣羽織を得意げに着用する姿が目に浮かぶようだ。
 愛用の短刀「太閤左文字(たいこうさもんじ)」(国宝)は、刀のことは全く分からないが、派手すぎず、すっきりとした姿に心引かれる。ゾッとする怖さもない。これだけの名刀となれば、ふさわしい持ち主を選んできたことだろう。
さりげなく会場に置かれた復元「黄金の茶室」は、MOA美術館のではなく、元伏見桃山城キャッスルランドにあったものだという。道具も含めて全て黄金、畳は緋色と聞くと、「何たる悪趣味!」と思うが、実物を前にすると、日常空間から一気に象徴的空間に飛び込むことができて、不思議と気持ちが落ち着く。
秀吉は野遊びが大好きである。本展には、天正15(1587)年に北野天満宮で催した北野大茶湯(おおちゃのゆ)を描く、幕末の浮田一惠(うきたいっけい)筆の一幅と、5か月後に最期を迎えることになる慶長3(1598)年の醍醐の花見を描いた桃山時代の屏風(重要文化財)が出ている。どこに秀吉がいるか、探すのが楽しい。
 辞世の和歌「つゆとをち つゆときへにし わかみかな なにわの事も ゆめの又ゆめ」の自筆墨書は、地味だが本展の白眉の一つ。秀吉が伏見城中で亡くなる10年以上も前に準備しておいたものと伝わる。人生の絶頂期に詠んだはずだが、まるで自分の行く末を予感したかのような歌だ。王朝ぶりの仮名を学んだ、子どもの字のように欲のない筆と、それでいて枯れた境地が素晴らしい。
 本展でのもう一幅の秀吉自らの筆になる書は、お腹の具合がよくない側室に宛てた書状だが、実に濃やかな、真心あふれる見舞いの手紙である。
 今回は出ていないが、死の床で五大老に宛てた遺言状「…いさい五人の者に申しわたし候。なごりおしく候。以上。秀頼事、成りたち候やうに、…たのみ申し候。なに事も、此のほかには、おもひのこす事なく候。かしく。」は、思い出す度に鼻の奥がつんとする。こんな事を言っても何の頼りにもならないことは、秀吉が一番よく知っているはずではないか。何世代にもわたって家を支える家来筋を持たなかった者の悲哀と言うべきか。
金銀が豊富に産出され、西洋文化とも出会った、戦乱後の平和な時代に、秀吉個人がいなくても、大らかで色彩豊かな桃山文化は花開いたかもしれない。しかし秀吉の派手好みが時代を先導した面はありそうだ。桃山の金碧障壁画が無ければ、その後の琳派も、若冲も現れなかったかもしれないし、高踏的な水墨画と構成的な狩野派だけでは寂しい。「豊臣の美術」が日本の美術史を豊かにしてくれたことは確かだ。
 ・・・・・・・・・・・・・・・
かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。

 

=次回は6月11日付(第2金曜日掲載)=

 

メモ 大阪市立美術館(天王寺公園内) 大阪市天王寺区茶臼山町1−82。電話06(4301)7285(大阪市総合コールセンター)。JR天王寺駅・近鉄大阪阿部野橋駅下車、北西へ徒歩約10分。https://www.osaka-art-museum.jp。会期は5月16日(日)までの予定でしたが、緊急事態宣言発令による休業要請をうけ、4月24日をもって閉幕しました。

 

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