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2021年3月13日 (土)

美ビット見て歩き *92

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いつも楽しみにしている川嶌一穂さんの美ビット見て歩きが奈良新聞に載っていました。小村雪岱です。あまりよく知らなかった方ですが興味深い画家です。

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美ビット見て歩き 私の美術ノート *92 川嶌一穂

 

三井記念美術館 特別展「小村雪岱スタイルー江戸の粋から東京モダンへー」

 

写真 小村雪岱「おせん 雨」木版 1枚 昭和16年(1941)頃 清水三年坂美術館蔵(三井記念美術館提供)

 

その昔、東京で下宿して上野の学校に通っている時、道でピーという蒸気の音がするので何かと思ったら「羅宇(ラオ)屋」だった。羅宇は、刻み煙草を詰める雁首と吸い口をつなぐキセルの管の部分で、小さなボイラーを据えた屋台を引いて、羅宇に溜まるヤニを蒸気で掃除する商売が羅宇屋。庭に植えた柳の枝が嫋嫋と下がる町家の門先にそれが停まっていると、ちょっと江戸の街に迷い込んだような気がした。
 関西で美人画と言えば、上村松園(明治8年<1875>〜昭和24年<1949>)のいわゆるはんなりとした上方美人を思い浮かべる。しかし鏑木清方や、「小江戸」として知られる埼玉県川越に生まれた小村雪岱(こむらせったい・明治20年<1887>〜昭和15年<1940>)の描く女性は、松園とはまた違うすっきりとした美人だ。
 東京美術学校で下村観山に学び、岡倉天心の創刊した美術雑誌「國華」で古画の模写に従事した雪岱は、27歳のとき泉鏡花から指名されてその小説『日本橋』の装幀を手掛け、一躍世に知られるようになる。画号「雪岱」も鏡花の命名である。以来商業美術の世界で、粋でモダンな雪岱スタイルを確立し大いなる人気を博した。
 写真は、昭和8年<1933>東京朝日新聞に連載された邦枝完二の大衆小説『おせん』に添えた挿絵を雪岱が描き改めて、その4年後の国画院展に出品した肉筆作品を、さらに木版画にしたもの。
 江戸は笠森稲荷の境内にある水茶屋の看板娘おせんが、おせんに横恋慕する紙問屋の若旦那徳太郎に街で出会って逃げ出そうとする場面。画面右下に頭巾を被ったおせんの顔が、重なる傘の合間からちらと見えている。細いけれども確かな線と大胆な構図が実に印象的だ。
 会場には雪岱の肉筆画、木版画、泉鏡花作品を中心とする装幀本と共に、挿絵原画、舞台装置原画、雪岱の好んだ鈴木春信の錦絵や、雪岱と同じ美意識に彩られた工芸品が並ぶ。
 その全作品およそ200点のうち、約8割が清水三年坂美術館の所蔵である。京都清水寺下の三年坂にある館は、村田製作所設立者の次男理如(まさゆき)氏が蒐集した主に幕末・明治期の工芸品を常設展示する。今ちょうど世界中から小さく愛らしい物を集めた、開館20周年記念展示「村田理如蒐集の軌跡」が開催中である。雪岱展は10年以上前に一度行われたが、残念ながら近々その予定はないとのことだ。
去年地元の古本屋で購入した雪岱画・楠山正雄編『源氏と平家』(冨山房)という子ども向けの本を、時々取り出しては飽きることなく眺めている。コロナ禍のこのご時世、実際に美術館を訪れるのは難しいところもあるが、多くの館はネット上のホームページに力を入れているし、メモに載せたサイトも充実している。鏡花たちが文章で、雪岱が絵で残そうとした江戸の粋をひと時味わって、自粛疲れを拭いたいものだ。冬来りなば春遠からじ!
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かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。

 

=次回は4月9日付(第2金曜日掲載)=

 

メモ 三井記念美術館 東京都中央区日本橋室町、三井本館7階。電話050―5541―8600。会期は4月18日まで(月曜休館)。日時指定予約制。http://www.mitsui-museum.jp。この後、富山県水墨美術館、山口県立美術館に巡回予定。▶︎清水三年坂美術館 京都市東山区清水三丁目。電話075(532)4270。開館20周年記念展は5月9日まで(月・火曜休館)。▶︎小説『おせん』は、著作権が消滅した作品を公開するネット上の電子図書館「青空文庫」にあり。新聞連載の翌年に単行本として出版された『絵入草紙おせん』は、ネット上の「国立国会図書館デジタルコレクション」にあり(ただし挿絵が数枚切り取られた事故本)。

 

 

 

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