美ビット見て歩き*90
川嶌一穂さんの美ビット見て歩きは、聖徳太子ー時空をつなぐものがたり、大阪フェスティバルタワー・ウェスト4階の中之島香雪美術館の聖徳太子像・聖徳太子絵伝修理完成記念特別展のことです。来年は太子没後1400年遠忌の年です。
会期はこの13日までです。わたしは行けませんが川嶌さんの文を興味深く拝読しました。来年もよろしくお願いします。
美ビット見て歩き 私の美術ノート *90 川嶌一穂
中之島香雪美術館 聖徳太子像・聖徳太子絵伝修理完成記念特別展「聖徳太子―時空をつなぐものがたり」
写真 聖徳太子像 重要文化財 鎌倉時代(13世紀〜14世紀) 香雪美術館蔵(中之島香雪美術館提供)
阪神間に点在する私設の美術館が好きで、神戸御影の香雪美術館も何度かお邪魔したことがある。ここは朝日新聞社創業者の村山龍平(1850―1933)が蒐集した日本・東洋の古美術を中心とする、重要文化財19点を擁する質の高いコレクションで知られている。「香雪」というのは、村山翁の雅号。
その香雪美術館が2年前の春、超高層ビルの中に開設した中之島分館を、先月ようやく訪問した。
写真の「聖徳太子像」は、このほど解体修理が完成した村山翁愛蔵の画幅。太子像というと、真っ先に思い浮かぶのは御物の「唐本御影(とうほんみえい)」だろう。まだ1万円に値打ちのあった時代の一万円札の肖像の元となった、二王子を従えた唐風の像だ。
しかしこちらの太子像は、幔幕を挙げた殿舎や着衣の文様までが精緻に描かれ、お顔も眉をしかめた険しい表情で、かなりイメージが違う。美豆良(みずら)を結い、柄香炉を手にする姿は、太子が父用明天皇の病気平癒を祈願したというエピソードを図様化したもので、「孝養(きょうよう)像」と呼ばれる。神像と同じ形式で描かれた、神格化された太子像だ。
本展のもう一つの中心は、これも修理後初公開となる館蔵「聖徳太子絵伝」三幅である。薄藍色のすやり霞で場面を区切って、太子の生涯を「太子何歳何々」と書いた短冊を添えて描いている。
興味深いことに、本来この三幅は現在ボストン美術館の所蔵する「聖徳太子絵伝」五幅とセットだったという。今回、両者を比較検討する予定だったが、新型コロナの影響で果たせなかった由。
さらに愛知県安城市の本證寺に伝わる「聖徳太子絵伝」(今回全九幅のうち六幅出展)が、その図様や絵絹など、香雪・ボストン本と双子と言ってもよい程に似通っている。共通の手本が存在したのだろう。
とすれば、両者の制作年代とされる鎌倉から南北朝時代に、太子信仰が広く行き渡っていて、その信仰のよすがとなるモノを制作する体制も整っていたことになる。
掛幅だけでなく絵巻の絵伝もあり、徳川家伝来本(全十巻)の四巻が出ているが、生き生きとした描写で、見ていて楽しい。館蔵品では南北朝時代の絵巻から切り離された断簡四図が出ている。
最近、厩戸王(うまやとのみこ)は実在したが、「聖徳太子」の存在は虚構だと言われ、教科書からその名が消えるらしい。その昔「聖徳太子=十七条憲法、冠位十二階…」と習った者としては、「えーッ」と驚くばかりだが、本当はどうなのだろう。
古代史で困った時は快刀乱麻の東野治之さんに聞いてみよう、という訳で『聖徳太子―本当の姿を求めて』(岩波ジュニア新書・2017年)を手に取った。
氏は「十七条憲法は太子が作ったと見ていい。が、政治的な実権はあくまで蘇我馬子にあり、太子は中国や朝鮮の書物を調べたり、制度を立案したりする立場だっただろう。仏教への理解は非常に深く、法隆寺に長く伝わり現在御物となっている「法華義疏(ほっけぎしょ)は、太子の著作であり、さらに自筆の原稿と見るのが妥当だ」と語る。法隆寺金堂釈迦三尊像銘文や「法華義疏」解読の道筋は、ミステリーを読んでいるかのようにわくわくした。
考えてみれば、法隆寺の「法」も、「上宮聖徳法王帝説」の「法」も、今で言う仏教のことだ。近代になるまで、聖徳太子は第一に仏教的存在だった。
来年は太子没後千四百年忌に当たる。時代時代でその評価の仕方は変化しつつも、私たち日本人は1400年前に生きた太子を敬愛し、その人の、その時代の遺物を大切に守ってきた。そんなことに気づかせてくれた充実した展覧会だった。
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かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。
=新年1月はお休みを頂いて、次回は2月12日付(第2金曜日掲載)=
メモ
中之島香雪美術館 大阪市北区中之島3−2−4 中之島フェスティバルタワー・ウエスト4階。電話06(6210)3766。
地下鉄四つ橋線「肥後橋」駅下車4番出口直結。入館予約は不要。要マスク着用、検温、手指のアルコール消毒、連絡先記入。会期は明後日12月13日(日)までなのでご注意下さい。
中之島香雪美術館のホームページです→https://www.kosetsu-museum.or.jp/nakanoshima/
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