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2020年10月11日 (日)

美ビット見て歩き *88

毎月楽しみにしている奈良新聞に連載の川嶌一穂さんの美ビット見て歩きも米88回目です。この10月は奈良まほろばソムリエの会でよく存じている小倉つき子さんの力作、『廃寺のみ仏たちは、今~奈良県東部編』について書かれています。(画像をクリックすると拡大します)

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美ビット見て歩き 私の美術ノート *88 川嶌一穂

 

写真 小倉つき子著『廃寺のみ仏たちは、今〜奈良県東部編』表紙

 

 6月に出版された小倉つき子著『廃寺のみ仏たちは、今〜奈良県東部編』は、本紙でも鉃田憲男さんの「明風清音」欄などで紹介されたので、すでに読んだ方も多いだろう。新書版サイズだが、地図や、巻頭の15ページにわたってカラー写真と、ほとんど全てのページに写真が添えられていて分かりやすい。
 「県東部」、つまり桜井、宇陀、山添村、奈良市東部の廃寺と、そこから流出した旧仏を丹念に取材した本書は、まず「粟原寺(おうばらでら)」から記述が始まる。
 桜井市南部の山中に、今は礎石だけが残る粟原寺趾がある。創建の事情が、談山神社に伝わる国宝「粟原寺三重塔伏鉢(ふくばち)」の銘文に記されていた。伏鉢は塔の上部、九輪の下に据える半球形の部分。銘文によると、寺は草壁皇子の菩提を弔うために造営され、和銅8(715)年に三重塔の7層の相輪が進上された。
 鋳銅製の伏鉢の鮮やかに残る鍍金からも創建時の堂宇の豪華さが偲ばれるが、次第に寺は廃れ、諸仏が流出した。「粟原流れ」と言われる仏さまのその後のドラマチックな旅路については、ぜひ本書をお読み下さい。ある仏は延暦寺へ、また長野県の清水寺(せいすいじ)へ、遠くはサンフランシスコにまで旅をされた。
 粟原寺は明治期以前に自然災害など色々な理由で廃寺となった例だが、この後に語られるのは主に明治以降の仏さまの身の上である。例えば、同じく桜井市の南部にある聖林寺(しょうりんじ)のボリューム溢れる、圧倒されるようなお姿の十一面観音立像をご覧になった方も多いだろう。が、この観音像は元々大神(おおみわ)神社の神宮寺であった大御輪寺(おおみわでら)に安置されていたものである。
 「神宮寺」などの神仏習合思想は、別々の文化的伝統に生まれた信仰を混交して、統一する為の工夫であり、またその成果だとも言えるだろう。
 周りを海に囲まれた豊かな自然環境の中で、大昔から素朴な信仰心を育んでいた日本に、体系的な思考と壮麗な構築物を伴った「仏教」という外来思想が、言わば突然入って来た。
仏教の受入れを巡って有力氏族が争ったが、日本人はその両方を選んだ。結果としておよそ千五百年後の令和に生きるわが家も、正月に東大寺と春日大社の両方にお参りして、何の違和感も感じない境地に至ったのである。
 余談になるが、文化庁の宗教統計調査によると、神道系の信者数は現在約8700万人、仏教系の信者数が約8400万人で、合計すると優に総人口を超えてしまう。日本人の宗教観の「いい加減さ」を表す証拠として語られることがあるが、以前は一つのものだったのだから、これはこれで自然なことかも知れない。
 しかし、明治初期に大変なことが起きた。神仏分離令に拠る、いわゆる廃仏毀釈である。このとき先述の大御輪寺も廃絶になり、観音像を信仰し、大切に思う人々が聖林寺にお移しして、今に伝わったのだ。
廃仏毀釈は、異民族に侵略されて仏教寺院が破壊されたのではなく、日本人が自らの手で多くの寺を破壊した。例えば京都では、金属製の仏具の類が溶かされて、京都最初の鉄橋である四条大橋の材料となった。このわずか数年で、全国におよそ九万あった寺院は半分になり、本来なら国宝も今の三倍はあっただろうと推定されている(鵜飼秀徳著『仏教抹殺』文春新書)。
 その原動力の一つが、堕落した江戸仏教への庶民の怒りだとされるが、本書からは、神仏分離令によって荒廃した寺院の建物や仏像を何とか残そうとする人々の姿が浮き彫りとなって見えてくる。
 知らなかったことが非常に多く、読み進むうちに付箋がいっぱいになった。タイトルに「、今」とあるのは、本書に登場する仏さまの将来を著者が心配されてのことだろう。次は「奈良盆地編」を計画中、と本紙の紹介記事にあった。とても楽しみだ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・
かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。

 

=次回は11月13日付(第2金曜日掲載)=

 

メモ
小倉つき子著。京阪奈新書『国宝仏から秘仏まで 廃寺のみ仏たちは、今〜奈良県東部編』(2020年6月刊)=京阪奈情報教育出版▼電話0742(94)4567、定価950円+税。

 

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