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2020年4月28日 (火)

カミュの『ペスト』

最近話題のカミュの『ペスト』を読む前に先日、NHKのテキスト2年前の放送の100分de名著のテレビ放送のビデオ見ましたが、ちょうどそのテキストが本屋に入荷していました。

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このテキストを読んだあと、新潮文庫の『ペスト』を読みました。
文庫本ながら460ページですから私にとってなかなか読み応えのある本でした。

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(追記)100分de名著の講師の中条省平氏の記事が毎日新聞27日夕刊にちょうど載っていました。

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アルベール・カミュの『ペスト』は1947年、第二次世界大戦が終わってまもなく出版されました。したがって、当時、この小説のペストにナチス・ドイツの隠喩を見て、そこにファシズムと戦ったカミュのレジスタンス(対独抵抗運動)の経験が投影されていると考えることはごく自然でした。
 しかし、『ペスト』はそのような比喩的な意味にとどまる小説ではありません。実際、いまこの小説を読み直してみると、金儲(かねもう)けのことしか考えない経済至上主義が病気の脅威を見て見ぬふりをする態度を生むことや、権力者とお役所のことなかれ主義が病気への対応を鈍く遅くすることへの痛烈な批判があって、まさに現今の新型コロナウイルス流行をめぐる日本の官僚機構の弱点を抉(えぐ)りだしています。

アルベール・カミュ(1913~60年)=AP
 しかし、カミュの『ペスト』を純粋に疫病の流行とそれが生むパニックを描いた小説だと考えることも正しくありません。
 というのも、カミュ自身はペストを世界の不条理を凝縮する普遍的な現象だと考えていたからです。
 世界は不条理であり、人間に理解不可能な不幸や悲惨を押しつけてくるものだということが、カミュの思想の出発点でした。これは、カミュがひどい貧困のなかで少年時代を過ごしたこと、また、青年時代から結核を患ってつねに死と隣りあわせで生きてきたことと切り離せません。そこからカミュの根本思想である世界の不条理という考えが生まれたのです。
   ■   ■
 そうした思想を抱くカミュにとって、ペストとは単なる病気ではなく、人間から自由を奪い、人間に不幸と苦痛と死をもたらすものすべての象徴なのです。それは、天災、戦争、ファシズムと等価なものであり、現代日本でいえば、大地震や原発事故のようなカタストロフ(破局)とも共通するものです。そして、こうした不条理に襲われた人間は、自分の自由を守るために、そうした不条理に反抗しなければならないというのがカミュの思想の核心なのです。
 それでは、カミュの『ペスト』の描く災厄と、現代のコロナウイルスという災厄を同一視できるかといえば、それは困難です。
 カミュはペストに襲われたアルジェリアのオランという町を完全な封鎖(ロックダウン)状態に置き、町に監禁されてしまった住民の闘いを描きました。もちろん、今回、この封鎖状態は、武漢(中国)やヨーロッパなど一部の地域で実現されましたが、あくまでも例外です。カミュの時代から60年以上経(た)ってグローバル化された現代世界にとって、封鎖監禁状態を厳密に実施することなどもはや不可能なのです。
   ■   ■
 とはいえ、カミュが描く主人公の医師リウーたちの不条理との闘いには、現代にも通用するいくつかのヒントが見られます。
 その一つは、不条理との闘いをヒロイズムにせず、凡庸な人間にも可能なものにするということです。世界の巨大な不条理に対して人間が一発逆転をすることは不可能です。人間が世界の中心にいると考えることを戒め、人間の限界を謙虚に認め、落ち着いて自分にできる責務を果たすことが各人のモラル(行動の指針)になるべきです。
 もう一つは、絶望に慣れることは絶望よりも悪いということです。絶望的状態であっても、無気力になってその場の勢いに流されて闘いを諦めないことです。どんなに小さな努力でもできることを積み重ねるしかないのです。
 最後は、明るく見きわめるということです。悪(あ)しき事態を過大視も過小視もせず、できるかぎり冷静に見つめ、目をそらさないこと。それがモラルになる、と『ペスト』は語っています。(ちゅうじょう・しょうへい)

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