美ビット見て歩き「童子切、特別展」
いつも楽しみにしている川嶌一穂さんの美ビット見て歩き、今年はじめて奈良新聞に載りました。春日大社国宝殿で開かれている「童子切」特別展です。1月でしたか、見に行こうとしたら入口で混んでいました。「刀剣女子」がたくさん見に行かれているとのことです。特別展のページです→https://kasugakatana.com/
美ビット見て歩き 私の美術ノート *81 川嶌一穂
春日大社国宝殿「最古の日本刀の世界―安綱・古伯耆展」
写真 春日大社国宝殿前広場(著者撮影)
新しくなった春日大社国宝殿で「最古の日本刀の世界展」を拝見した。会場は「刀剣女子」でいっぱい。「光を感じる」とか、「切ない…」という女子の呟きが聞こえる。「刀剣乱舞」という、刀を人格化した刀剣男子を育てながら戦う人気ゲームの影響らしいが、古美術の展覧会として画期的なことだ。
春日大社は茨城県の鹿島神宮から武甕槌命(たけみかづちのみこと)をお迎えしたことに始まると伝わるが、「古事記」によれば、建御雷神(たけみかづちのかみ)は、天照大御神から遣わされ、出雲の国の海岸に十拳(とつか)の剣の剣先を立て、その上に坐して大国主神に国譲りを迫った神だ。御本性が剣であることの証だろう。「古事記」冒頭で伊耶那岐命が、火の神を生んでお隠れになった伊耶那美命を出雲と伯耆の国堺の比婆山に葬り、悲しみの余り、子である火の神を斬ってしまわれたその十拳の剣である。
不思議なことに比婆山周辺は、日本刀(美しい反りと鎬<しのぎ・刃と峰の間の高い稜線部分>を持つ刀)の製作に欠かせない「たたら製鉄」で作り出される和鋼の伝承地、すなわち本展のテーマである古伯耆の刀匠・安綱(平安時代)の活躍した地である。
3年前、春日大社の所蔵する錆びた太刀を研いだら「古伯耆物」であることが判明して話題となったが、春日大社と伯耆国(鳥取県)が歴史の中で繋がったように思えるニュースだった。
16世紀から17世紀の世界の歴史を振り返れば、アジアのほとんどが西洋の植民地になった中、日本は独立を保った。その大きな要因は、1543年、種子島に漂着した異国船の商人から鉄砲2挺を購入した領主が、家臣にそれを模造させ、わずか1年半後に数十挺の鉄砲を製造し得たことにあるだろう。
種子島を訪れた根来寺の寺僧や堺の商人も製造法を習得して鉄砲を持ち帰り、近畿でも鉄砲の製造が始まった。30年後の長篠の戦いで、織田・徳川連合軍が3000挺の鉄砲で武田の騎馬隊を破ったことはよく知られている。
鉄砲、日本刀、槍、銃弾など日本製の武器は、銀、銅と共にその後長いあいだ海外に輸出された(しばやん「大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか」文芸社)。日本での鉄砲の大量生産を可能にしたのは、日本刀の製造によって蓄積された技術力の賜物である。
その後、明治初期の廃刀令と、敗戦後のGHQによる接収(その数、実に数百万振とも)、製造禁止という危機を経験しながら、大切な日本刀が今に伝えられたのはまさに奇跡である。国の成り立ちから令和の今に至るまで、日本刀はずっと日本を守っている。若い人はそのことを感じているのかもしれない。
1月はお休みを頂いたので、今回が令和2年の第1回です。本年もどうぞよろしくお願い致します。
=次回は3月13日付(第2金曜日掲載)=
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かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。
メモ 春日大社国宝殿 春日大社本殿手前(西側)。JR大和路線・近鉄奈良線「奈良駅」から奈良交通バス(春日大社本殿行)15分乗車、「春日大社本殿」下車すぐ。または奈良交通バス(市内循環外回り)15分乗車、「春日大社表参道」下車、参道を東へ徒歩15分。(休日は道路が混み、バスの所要時間は予測不可能になります)。電話0742(22)7788。会期は3月1日まで。
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ご来場頂きありがとうございます。
過分なご評価に恐縮しながらも、正直なところ嬉しい思いでおります。
また、詳細なご案内も頂き、重ねて御礼申し上げます。
これまでもご覧頂いていたようですが、今回初めてお会いできました。
このご縁、大切にしたいと思っております。
よろしくお願いします。
投稿: MONO | 2020年2月22日 (土) 08時01分
やはり古事記神話の謎は天皇礼賛だけではないいびつな構造をしているある種の正直さが心惹かれるのでしょう。
古事記神話の構造をザックリいうと高天原の2度の地上への介入がその構造の中心となっている。1度目はイザナギとイザナミがオノゴロ島を作り、国生み神生みを行い、次にイザナミのあとを継ぎスサノオが
根之堅洲国で帝王となる。第二の高天原の介入はアマテラスによる九州への天皇の始祖の派遣とそれに続く天皇を擁する日本の話でこれは今も続いている。
これらの2度の高天原の介入に挟まれた形で出雲神話がある。天皇の権威を高めるのに出雲があまり役に立たないのに古事記で大きく取り上げられている。その神話の構造の歪さに我々は心を惹かれる。
たとえば天皇も大国主も大刀(レガリア)の出どころはスサノオでありその権威の根源を知りたくなってしまう。そうなると島根県安来市あたりの観光をしてしまいたくなる。
投稿: 出雲街道ツーリングX(修理固成) | 2020年11月 1日 (日) 18時51分