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2019年10月15日 (火)

美ビット見て歩き *78

毎月楽しみにしている奈良新聞の 川嶌一穂さんの美ビット見て歩き 私の美術ノート *78です。あべのハルカス美術館でひらかれている展覧会です。どうぞお出かけください。

 

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美ビット見て歩き 私の美術ノート *78 川嶌一穂

 

あべのハルカス美術館「ラスキン生誕200年記念―ラファエル前派の軌跡」展

 

写真 ウィリアム・ヘンリー・ハント《ヨーロッパカヤクグリ(イワヒバリ属)の巣》1840年頃、ベリ美術館©️Bury Art Museum, Greater Manchester, UK (あべのハルカス美術館提供)

 

本展は細かい理屈抜きに、作品をそのまま観て行っても十二分に楽しめるが、登場人物が多いので、絡まった糸を少しほぐしてみよう。
まず「ラファエル前派」という呼び名は、「ラファエル・前派」、つまり「ラファエル派の前期」という意味ではなく、「ラファエル前・派」、すなわちイタリア盛期ルネサンスの巨匠・ラファエルに象徴される古典的、規範的美術を否定し、それ以前の美術に戻るべきだと主張した美術運動である。
日本で言えば江戸時代末期、ペリー来航5年前の1848年に、イギリスの画学生が「ラファエル前派同盟」を結成した。謎めいた女性像が印象的な、詩人としても有名なダンテ・ガブリエル・ロセッティや、今回は残念ながら来日しなかったが、夢のように美しい《オフィーリア》の画家・ジョン・エヴァレット・ミレイら7人である。本展の中心となる彼らの作品は、章立て構成のうち「第2章・ラファエル前派」にまとめられている。
正統に異を唱える者の常で、彼らも最初は世間の批判を浴びたが、その作品や主張が次第に受け入れられていく。創立メンバーではないがラファエル前派の周縁に位置する画家の作品が「第3章・ラファエル前派周縁」に並ぶ。その一人、写真に掲げたウィリアム・ヘンリー・ハントは、土の香りがするような緻密な自然描写が得意で、「鳥の巣ハント」と呼ばれた。
では「第1章・ラスキンとターナー」とラファエル前派との関係はどういうものか。美術評論家・ジョン・ラスキン(1819―1900)は、当時はぞんざいだと酷評されていたターナー(1775―1851)を、自然の多様性を表現し得た風景画家であると擁護し、自分でも彼の絵を収集した。また一方、1851年にラファエル前派を擁護する投書をタイムズ紙に寄せて以来、ラスキンは彼らの作品をターナーと関連づけて好意的に論じた。
特筆すべきは、画家ならぬラスキンの素描や水彩画の素晴らしさである。うまい絵を描こうとしない、純粋に建築や自然の細部に興味があるためか、例えば《柳の葉の習作》など、自然の聖性さえ感じる秀作である。
「第4章」のバーン=ジョーンズと、日本でもよく知られている「第5章」のウィリアム・モリスは、1853年にオックスフォード大学で出会い、2人とも聖職者になる道を捨てて、画家とデザイナーになった。ラスキンとラファエル前派の強い影響を受けて、中世的なモチーフを多用し、人気を得た。
以前イギリス人の友人と話していてターナーが話題になった時、2人が口を揃えて「彼の絵はdull(だるい)」と言う。ターナーの同時代と似たような評価を下すので、とても興味深かった。
反対に、日本人は永遠に続く確固たるものを追求するよりは、風のそよぎや変化する光の色彩に心を動かされてきた。今も中世の物語が身近にある日本人に親しみやすい展覧会だ。たっぷり時間を取ってお出かけ下さい。

 

=次回は11月8日付(第2金曜日掲載)=
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かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。

 

メモ あべのハルカス美術館 大阪市阿倍野区阿倍野筋1−1−43。あべのハルカス16階。電話06(4399)9050。会期は12月15日(日)まで。休館日:10月21日(月)、10月28日(月)。https://prb2019.jp/

 

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