美ビット見て歩き*64元興寺・国宝禅室屋根裏探検
毎月楽しみにしている、川嶌一穂さんの奈良新聞掲載の「美ビット見て歩き」は元興寺・国宝禅室屋根裏探検です。国宝の中であり、ふだんは滅多にお目にかかれない屋根裏を川嶌一穂さんもヘルメットをかぶって探検されました。暑さの中の屋根裏探検は書かれているように、少年少女時代を思い出す体験です。
今回は7月16日までです。秋は10月13日から11月11日までです。
創建千三百年記念特別公開 元興寺・国宝禅室屋根裏探検
写真 元興寺極楽坊・本堂(右)と禅室(左)の屋根瓦(著者撮影)
奈良町のお寺として、本欄で平成27年6月に十輪院さん、29年5月に璉珹寺さんを紹介したので、次は元興寺さんを、と思っていたら、折よく「国宝禅室屋根裏探検」の告知を目にした。「探検」と聞けば、行かずばなるまい。男の子に一人交じって山野を駆け回っていた頃の気分が蘇った。
まずは本堂にお参りする。極楽堂とも呼ばれるこちらの本堂は、ちょっと変っている。正面東側は、六間という偶数の柱間(はしらま)である。堂内中央に板敷の内陣があり、それを囲む畳敷きの外陣(げじん)は広く、かつ本尊の智光曼荼羅の周りを一周することができる。元々、僧の居住空間であったところに、中世から盛んになった庶民信仰に対応して、この開放感あふれる構造になったのだろう。
内陣と外陣を隔てる太い丸柱と角(かく)柱、四方の障子と小さな組子(くみこ)を入れた格天井(ごうてんじょう)が互いに響きあって調和している。
一旦外へ出て、本堂の南面を、捩花(ネジバナ)の咲く芝生に沿って西へと向かう。わたしの中の元興寺さんのハイライト、お屋根拝見である。
目指すは本堂の西面と、禅室南面の東寄りの屋根だが、伝説の帚木(ははきぎ)ではないが、近寄ろうとすればするほど、見えなくなってしまう。掲載の写真は、境内の標識に従って、一番よく見えるというポイントから望遠で撮ったもの。
一枚ごとに色合いの違う瓦が集まって、美しいモザイク模様となっている。何とこの中には、創建の地・飛鳥から、奈良時代にこの地まで運ばれた瓦もあるという。当時もう荷車はあったのだろうか。
とつおいつ思いを巡らせているうちに、肝腎の屋根裏探検の時間となった。渡されたヘルメットを被り、懐中電灯を首にかけて屋根裏へと上がる。
案内の方が懐中電灯で照らしながら、部材を釿(ちょうな)で削った表面の凸凹や、職人さんの落書きならぬ「落彫り」?などを見せて下さる。
一番印象に残ったのは、様々に違う時代の建築材が随所に使われていることだった。移築や改築、修理のさいに、貴重な木材を捨てることなく、出来るだけ古い材のいいとこ取りをして、1400年もの時間を持ちこたえて来たのだ。屋根瓦またしかり。
何でもピカピカに新しい現代に生きる私たちが「美しい」と感じるのは、思えば不思議なことだが、それが何代にもわたる職人たちの仕事の集積だからだろう。
秋風が立つころの、境内の萩の花もまた楽しみだ。
=次回は平成30年8月10日付(第2金曜日掲載)=
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かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。
メモ 真言律宗・元興寺 奈良市中院町11。電話0742(23)1377。猿沢池東側の道を南へ5分歩いて西側。前期禅室屋根裏探検は7月16日まで。後期は10月13日から11月11日まで(事前予約制。申し込みは奈良市観光センター、電話0742(22)3900)。https://www.gangoji-tera.or.jp
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