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2017年10月17日 (火)

美ビット見て歩き 私の美術ノート *56 「地獄絵ワンダーランド」

毎月、楽しみにしている川嶌一穂さんの美ビット見て歩き 私の美術ノート 龍谷ミュージアム・秋季特別展「地獄絵ワンダーランド」は、13日奈良新聞に掲載されました。

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美ビット見て歩き 私の美術ノート *56 川嶌一穂

龍谷ミュージアム・秋季特別展「地獄絵ワンダーランド」

写真 十王図(部分) 江戸時代・日本民藝館〔展示期間9月23日~10月15日〕=龍谷ミュージアム提供

夏に奈良国立博物館で開かれた「源信―地獄極楽への扉」展に行けなかったので、先日JR京都駅から歩いて「地獄絵ワンダーランド」展に出掛けた。地獄がワンダーランド?といぶかしく思いつつ会場に着くと、観客でいっぱいだった。
今年は、日本人の地獄イメージを形作った『往生要集』を著した源信(げんしん。942~1017)が没してちょうど千年にあたる。紫式部の源氏物語が完成した少し後の、まさに貴族文化が頂点を極めた頃である。しかし自然災害や社会の大変動から来る不安が人々の心に忍び寄っていたのだろう。この頃描かれた「六道絵」は陰惨な場面の連続だ。
鎌倉時代は、大陸から「地獄十王図」が輸入され、日本の絵師たちがそれを手本として十王図を量産した。唐の官服を身につけた閻魔大王、三途の川のほとりで死者の着物を剥いで罪の重さを計る奪衣婆(だつえば)など、今の私たちにも伝わる地獄イメージの原点だ。
面白いのは、ここからの展開。江戸時代「地蔵十王経」という絵入りの経本が出版された。本展図録の解説によると、お経は偽経だそうだが、印刷本は普及の度合いが全く違う。
ここで描かれる地獄では、釜茹でにされている亡者も余裕の表情だ。版を彫る職人も、見る者もおおかた庶民である。庶民は自分の手で魚をさばいたり、蚊やゴキブリと戦いながら日々暮らしている。殺生をした者は「等活(とうかつ)地獄」に堕ちる、と言われても困ってしまう。ユーモアさえたたえた描写は、殺生をしながら生きていくしかない自分、天変地異から逃れられないこの世の中を、「地獄」として丸ごと飲み込んでいく覚悟の表れだろう。
さあ、ここから地獄はワンダーランド!たとえば18世紀後半の大坂の絵師・耳鳥斎(にちょうさい)は、「別世界巻」と題する絵巻で、地獄をとことん洒落のめしている。歌舞伎役者は大根と一緒に大釜で煮られ、芸妓の営業時間を線香で計っていた置屋は、線香と同じように燃やされてしまう。江戸はほんとに面白い。
写真の素朴な「十王図」は、民芸運動の創始者・柳宗悦(やなぎむねよし)の旧蔵。点数は少ないが、白隠(はくいん)、木喰(もくじき)の作品もいいものが出ている。向かいの西本願寺の銀杏は少しだけ黄葉が始まっていた。
子どもの頃、嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれるよ、と大正生まれの母がよく言っていた。さすがに信じてはいなかったが、頭の中に強烈なイメージが沸き起こって、口答えしようとする出鼻を挫かれてしまった。地獄の効き目は確かにあった。

=次回は11月10日付(第2金曜日掲載)=
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かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。

メモ 龍谷大学・龍谷ミュージアム 京都市下京区堀川通正面下る。電話075(351)2500。京都駅から北西方向へ徒歩12分、西本願寺前。会期は11月12日(日)まで。月曜休館。

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写真は、この夏、奈良国立博物館で開かれた「源信」展。これぞ地獄。

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