美ビット見て歩き 私の美術ノート *41
毎月楽しみにしている、川嶌一穂さんの美ビッド見て歩き、が奈良新聞に掲載されました。東北大震災からまる5年あまり、美術品も大きな被害を受け、修復されつつあるとのことです。ただ、「美術館、博物館ばかりか寺社、仏像、美術品のない奈良など考えられない。しかし遠くで起きたことを忘れないでいるのもこれまた実に難しい。」との結びの言葉が率直であり、耳に痛く、こころに留めたいと思います。
美ビット見て歩き 私の美術ノート *41 川嶌一穂
東京藝術大学大学美術館「いま、被災地からー岩手・宮城・福島の美術と震災復興―」展
写真 会場休憩室から美術学部正門を臨む=著者撮影
奈良から東北は遠い。まさに「道の奥」である。しかし東京にいると東北を身近に感じることがある。スーパーにブロッコリが2種類置いてあって、値段が100円も違う。よく見ると、被災地産のものが安いのだ。
もう21年も前になるが、平成7年1月の阪神淡路大震災の後、3月に東京で地下鉄サリン事件が起きて、マスコミの報道がいっせいにそちらに移ってしまった。関西に住む者として、報道が減っただけで寂しく感じたものだ。
この欄でも26年4月に「三陸鉄道」、27年3月に気仙沼の「リアス・アーク美術館」を取り上げたが、今年はまだ東北を訪れる機会がなかった。先日ある展覧会のチラシを見て、上野まで足を運んだ。国立博物館を右に見ながら緑濃い上野公園を突き抜けると東京藝術大学だ。門を入るとすぐ右側に小さな大学美術館がある。ここで「いま、被災地から」展が開かれている。
会場は二部構成で、第一部には彫刻家・舟越保武、佐藤忠良や画家・萬鉄五郎、松本竣介、関根正二ら東北出身の近現代の作家の作品が展示してある。一見して違う個性の作者も東北という枠のなかに置いてみると、暗さ、深さ、激しさといった共通項が見えてくるようで興味深い。
第二部が「大震災による被災と文化財レスキュー、そして復興」と題された展示で、本展覧会の眼目である。岩手、宮城、福島三県の美術館、博物館の被災状況と、「全国美術館会議」によるレスキュー(救出)活動をおもに写真で紹介し、じっさいに修復された作品も何点か展示されている。
写真に添えた説明文を駆け足で読んでいて、ある文章の前で釘づけになった。「2階天井まで浸水した同館は…館内に大量の瓦礫が流入し、6名の職員全員が犠牲となった。」岩手県陸前高田市立博物館のことだ。
同博物館で被災した猪熊弦一郎の作品が、修復されて会場に並んでいる。猪熊の明るい色彩が、会場でのつらい気持ちを慰めてくれた。
同市で被災し救出された柳原義達作の女性ブロンズ像は、脱塩などの応急処置を施しただけで展示されていた。手足の先をもがれた痛々しい姿ではあるが、その堂々たる体躯からは力強さがみなぎっていた。
大地震はいつどこで起きても不思議ではない、日本列島は地震の活動期に入った、と専門家は言う。他人事ではない。
美術館、博物館ばかりか寺社、仏像、美術品のない奈良など考えられない。しかし遠くで起きたことを忘れないでいるのもこれまた実に難しい。
=次回は7月8日付(第2金曜日掲載)=
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かわしま・かずほ
元大阪芸術大学短期大学部教授。
メモ 東京藝術大学大学美術館 東京都台東区上野公園12-8。電話03(5777)8600。JR山手線上野駅下車、公園口から徒歩10分。月曜日休館。会期は6月26日まで。http://www.geidai.ac.jp/museum/。
全国美術館会議 ホームページ特設サイト「東日本大震災救援・支援活動」
http://www.zenbi.jp/earthquake/tohoku/。
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(追記)。後日ちょうど東京へ行く機会があり、上野公園をたずね、東京藝術大学美術館で拝見してきました。
数々の東北の作品と共に、被災された作品が修復されすこし痛々しいものもありましたが展示されていました。
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